弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所

ニュースファイル  ◎東住吉冤罪事件


●東住吉冤罪事件無罪(2016年8月11日朝日新聞朝刊など 斎藤ともよ弁護団長談話)




●21年、真っ白な無罪 東住吉火災、再審(2016(平成28)年8月11日朝日新聞大阪朝刊)


大阪地裁で10日、青木恵子さん(52)に続き、朴龍晧(たつひろ)さん(50)にも無罪判決が言い渡された。不正な取り調べを認めた判決に「心が晴れ晴れした」と笑顔を浮かべ、警察や検察には「判決をしっかり受け止めてけじめをつけてほしい」と訴えた。
■青木さん「普通の母親になれる」
  判決後、青木さんは会見し、「完全な真っ白な無罪判決で本当によかった」と笑顔を見せ、「どれだけつらい調べを受けたか、今まで訴えてきたことがやっと認めてもらえた。感激し、感謝している」と話した。
判決は誤判原因への言及や謝罪はなかったが、集会で支援者から花束を受け取り、「裁判官が最後に『青木さんは無罪です』と目を見て言ってくれた。謝罪の代わりだったのかなと思うことで、ひと区切りつきました」と話した。一方で捜査の違法性を明らかにしたいと国家賠償を求める訴訟を起こす考えを示した。
青木さんはこの日、黄色い花柄が入った紺色のワンピースに、薄い黄色のカーディガンを羽織って法廷入り。「ヒマワリが大好きだっためぐみと一緒に判決を聞きたい」と黄色を選んだ。理由の朗読中は、裁判長をじっと見つめながら、時折メモを取った。
地裁前で「無罪」の旗が掲げられると、集まった支援者から「長い闘いをよく頑張った」と歓声が上がった。
青木さんはこの日、亡くなっためぐみさんとともに判決を聞きたいと、ヒマワリが好きだっためぐみさんにちなみ、黄色のカーディガンと花柄ワンピース姿で法 廷に立った。支援者らに「『娘殺しの母親』という汚名が返上できたのが一番うれしい」と述べ、「息子や両親もほっとしていると思う。新たに前を向いて歩ん でいきたい」と誓った。
大阪地検が上訴権を放棄し、即日判決が確定したことについては「明日から普通の母親として生きていける。ほっとしている」とのコメントを出した。
斎藤ともよ弁護士は1995年9月の逮捕翌日に接見して以来、青木さんの弁護活動を続けてきた。判決後、「20年かかったがようやくここまで到達できた。 今日を迎えられ、長かったが苦労が報われた。今後もこういう冤罪(えんざい)事件が起きないよう頑張っていきたい」と述べた。(太田航)
(中略)
■「謝罪予定ない」 大阪地検

大阪地検の田辺泰弘・次席検事は10日夕、上訴権を放棄したことを明らかにし、「被告とされたお二方が長年にわたって服役して無罪に至ったことは遺憾」と述べた。しかし、「謝罪する予定はない」と話し、「無罪を積極的に裏付ける証拠が提出されたわけではない」と理由を説明した。
判決が捜査を厳しく批判した点については「ご指摘は承知している。至らなかった点は今後の捜査・公判にいかしたい」とした。問題点は内部で検証しているが、公表予定はないという。
大阪府警は同日、宮田雅博・刑事総務課長名で「判決を真摯(しんし)に受け止め、今後の捜査に活(い)かすべきところがあれば活かしてまいりたい」との談話を出した。

■虚偽の自白誘導を批判

再審事件に詳しい大阪大法科大学院の水谷規男教授(刑事訴訟法)の話 判決は再審無罪のハードルを高く設けすぎているように読めた。刑事裁判の第一の目的は被告人の有罪・無罪を判断することで、自白の任意性がないだけで無罪が言い渡されるべきだ。今回の判決は火災が自然発火だったか否かを重視し過ぎており、「真相まで合理的に説明されなければ無罪を言い渡せない」という裁判所の姿勢がにじんだ。
一方、2人の自白について、無理やりさせられ任意性はないと認めた点は画期的だ。警察のもつ情報を押しつけて虚偽の自白ができあがったと明確に批判しており、捜査機関への影響は大きい。「捜査は適正だった」と言い逃れできず、取り調べの方法は改めて見直されるべきだ。

■<視点>冤罪、司法自ら検証を

「21年の時間を奪った原因を知りたい」。2人のこの訴えは一定程度、裁判所に届いた。判決は警察の強引な取り調べがうその自白を生んだと認め、過去の再審よりも踏み込んだ。一方で自白を信用した誤判に対する言及はなかった。
刑事裁判の目的は「真相を明らかにし、刑罰法令を適正・迅速に適用すること」にある。このため従来の再審は無罪がわかれば判決を急ぎ、必要以上の証拠調べはせず、問題点に触れてこなかった。栃木県の足利事件でも裁判官は謝罪したものの、再審は冤罪(えんざい)を究明する場ではないとして、虚偽の自白を生んだ警察官の証人尋問もしなかった。
次善の策として、元被告が国家賠償請求訴訟を起こし捜査官の証人尋問をすることもできるが、本来ならば司法自ら検証するのが筋だ。英米のように中立機関が 調査に乗り出す仕組みを日本も導入する時期に来ている。裁判員制度が始まって7年。これまで5万人超の市民が経験した。過ちから学ばなければ、いつか市民 が誤判にかかわる可能性もある。冤罪はもはやひとごとではない。(阿部峻介)


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●大粒の涙で「これからは普通の母親に」~大阪地裁で再審無罪判決 (2016(平成28)年8月10日毎日新聞)

21年に及ぶ無実の訴えが、ようやく司法に届いた。大阪・東住吉の女児焼死火災を巡る10日の再審判決。無罪となった青木恵子さん(52)は、大阪地裁前に集まった大勢の支援者を前に、「裁判長が『青木さん』と言ってくれた。真っ白な無罪判決。これからは『娘殺しの母親』から『普通の母親』として生きて いきたい」と大粒の涙を流した。
判決言い渡しの開始から1時間近くたった午前11時前、大阪地裁2階の大法廷。理由の朗読を続けていた西野吾一裁判長は、最後に「犯罪の証拠がないので無罪とする」と告げた。さらに、弁護人席に座る青木さんのほうに体を向け、「もう一度言います。青木さんは無罪です」と言い直した。
青木さんは何度もうなずき、閉廷後には立ち上がって深々と裁判長に頭を下げた。弁護団に声を掛けられると、黄色いハンカチで何度も目頭を押さえた。
青木さんはこの日、黄色い花柄が入った紺色のワンピースに、薄い黄色のカーディガンを羽織って法廷入り。「ヒマワリが大好きだっためぐみと一緒に判決を聞きたい」と黄色を選んだ。理由の朗読中は、裁判長をじっと見つめながら、時折メモを取った。
地裁前で「無罪」の旗が掲げられると、集まった支援者から「長い闘いをよく頑張った」と歓声が上がった。
青木さんは判決後、支援者と抱き合って「素晴らしい判決だった」と涙を見せた。会見では「裁判長はこれまで私のことを『被告人』と呼んでいたのに、今日は私の目を見て『青木さん、無罪です』と言ってくれた。それを謝罪と受け止めたい」と評価。弁護人の斎藤ともよ弁護士も「長かったが、苦労が報われた」と 語った。
今後について青木さんは「新たな気持ちでスタートしたい。娘のお墓に『安らかに眠ってね』と報告したい」と語った。捜査機関に対しては、「自分たちのミスで人生を狂わせた事実を受け止めて反省して」と訴えた。
青木さんは、警察と検察の捜査や公判の違法性を明らかにするとして、国家賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こす考えを示した。【服部陽、原田啓之、道下寛子】

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●逮捕時報道を精査し、即時釈放を── 東住吉冤罪事件 浅野健一 (週刊金曜日 2012.7.6(902号)58頁人権とメディア第644回

「今も暴力的な捜査、でたらめな裁判があるのか」。
6月27日、仙台の宮城学院女子大学で聞かれた杉山卓男(すぎやまたかお)氏と菅家利和(すがやとしかず)氏の講演会で、ある学生が聞いた。布川事件は1967年、足利事件は90年に起きた。
杉山氏は「司法は何も変わっておらず、冤罪は誰にでも起きる」と答えた。菅家氏は「暴行した刑事、犯行を認めろと迫った弁護士は私に謝っていない。彼らを絶対に許さない」と述べた。杉山氏は「警察の情報を、自分で調べもせず垂れ流すマスコミも同罪だ」と強調した。
その2日後、東京で開かれた人権と報道・連絡会の定例会で斎藤ともよ弁護士が「東住吉事件報道」をテーマに報告した。95年7月22日、大阪市東住吉区で11歳の小学生女児が焼死し、母親・青木恵子氏と夫の朴龍皓(ぼくたつひろ)氏が「保険金殺人」容疑で逮捕・起訴された。2人は2006年に最高裁で無期懲役が確定したが、その再審請求審で大阪地裁は今年3月7日、再審開始を決定した。
大阪地裁は弁護側が10年5月に実施した火災の再現実験結果を「証拠価値が高い」と認め、「約7リットルものガソリンをまき、ライターで火を点けたとの自白通りなら本人もやけどを負うはずなのに、実際は頭髪を焦がす程度だった。自然発火の可能性は否定できない」と認定した。放火ではなかったのだ。
大阪地検が3月12日に即時抗告したため、大阪高裁で審理されている。大阪地裁は3月29日、刑の執行停止を決定したが、大阪地検が抗告し、大阪高裁は4月2日、釈放を認めないと決定。弁護側は特別抗告し、最高裁で審理中だ。今も、青木氏は和歌山刑務所、朴氏は大分刑務所でそれぞれ服役中だ。
2人は17年間も自由を奪われている。東電社員事件で再審開始と同時に釈放が決まったマイナリ氏と比べると不公平だ。
斎藤氏は青木氏が逮捕された翌日の95年9月11日に、当番弁護士として派遣された。同署は「取り調べ」を理由に面会を拒否したが、斎藤氏は抗議してやっと面会できた。青木氏は「私はやっていない」「刑事は私の言うことを全然聞いてくれない」と訴えた。その後、主任弁護人として弁護を続けている。
斎藤氏は新聞記事を見せながら、「逮捕の時点で実名、顔写真を出して、警察の見立てどおりの報道を行なった。テレビの報道もすさまじかった」と語った。
新聞各紙は火災から5日後の7月27日、《放火と府警断定 東住吉の小6》(『朝日新聞』)などと、放火殺人と決め付けた。逮捕を報じた9月11日の各紙は《自分の子を殺すなんて 浪費たたり借金漬け 悲劇の母装う》(『読売新聞』)《身勝手な動機に衝撃》(『日経新聞』)などと大見出しで報じた。
斎藤氏は9月12日、大阪地裁の司法記者会で会見し、青木氏が「放火、殺人ともやっていない」と容疑を否認していると伝え、警察の違法捜査も訴えた。その後、報道は沈静化した。
斎藤氏は「再審決定の1週間後、同じ東住吉の傷害致死被疑事件で弁護を依頼された。裁判員裁判になるが、市民は逮捕の報道で心証を作ってしまう」と述べた。高見澤昭治(たかみざわしょうじ)弁護士は「報道は警察の誤った捜査をそのまま記事にしている。冤罪の責任の半分は報道にある。最近相次ぐ再審裁判をきっかけに犯罪報道の大転換を進めたい」と話した。斎藤氏は「火災再現実験では『テレビ朝日』が協力してくれた」と述べた。メディアは2人の釈放を世間に訴え、事件に関わった捜査・報道関係者に調査し、刑事が虚偽自白を取った経緯を社会に明らかにすべきだ。
(あさの けんいち・ジャーナリスト、同志社大学教授。)

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●「無実」の光、差した 元被告「闘って良かった」 東住吉放火殺人、再審開始決定(朝日新聞夕刊 2012年3月7日)

「無実」の訴えが再審の扉を開いた。1995年に大阪市東住吉区の住宅に放火し、小学6年の少女(当時11)を殺害したとして無期懲役が確定した母親らに対する7日の再審開始決定。弁護団は自白を重視した当時の捜査を批判し、検察側に即時抗告を断念するよう求めた。

「開始決定」。午前10時すぎ、大阪地裁の正門前で弁護団メンバーがこう書かれた紙を掲げると、約70人の支援者たちから「やったぞ」「再審だ」という歓声が上がり、拍手がわき起こった。朴龍晧(ぼくたつひろ)元被告(46)の母親(70)は「本当に良かった」と声を震わせた。

弁護団は決定後、大阪市内で記者会見。青木恵子元被告(48)の主任弁護人・斎藤ともよ弁護士は「いったん自白してしまうと、覆すのは難しい。一抹の不安があったが、先例になる立派な再審開始決定だ」と評価し、検察側に即時抗告しないよう求めた。

青木元被告は弁護団を通じ「何度も何度も裁判官たちに裏切られ、つらい、悔しい思いをしてきましたが、負けずに闘ってきて本当に良かった。これで娘も浮かばれます」との談話を出した。今後については「早く高齢の両親のもとに帰り、母の介護をしてあげたいし、息子との離れていた時間を取り戻し、息子と娘のお墓に行き、『ママは無実を証明したよ』と報告したい。これ以上、家族との時間を奪うことなく、すぐ釈放してほしい」としている。朴元被告は談話で「子どもを助けられなかったことや、うその自白をさせられたことが悔しくてなりませんが、(再審で)無実を改めて訴えたい」との心境を明かした。

刑事訴訟法によると、裁判所は再審開始決定の中で刑の執行を停止できると定めているが、7日の決定では触れていなかった。弁護団は今後、2人の執行停止を求める手続きを検討するとみられる。

●再現実験「放火は不可能」

事件から15年10カ月後の昨年5月。弁護団は大阪府から約300キロ離れた静岡県内の空き地にいた。朴元被告が府警の調べに、青木元被告の自宅車庫に「ポリタンクに入れた約7リットルのガソリンをまいた後、ライターで火をつけた」「青木元被告の娘が入浴していた車庫と壁1枚を隔てた風呂場に燃え移った」とした供述の通りに火災が起きるのかを調べるためだった。

車庫に見立てたプレハブを2棟建て、それぞれに当時と同様に種火がついた風呂釜とワゴン車を置いた。朴元被告が自白したとされる「7リットル」のガソリンを自動散布機でプレハブ内にまいている途中、火を付けていないのに車庫全体が火の海に。風呂釜の種火から引火したのが原因だった。

もう1棟でガソリンをまく速度を変えて再現実験をしたところ、再び7リットルをまききらないうちに種火から引火した。「仮に朴元被告が車庫内で7リットルをまいていたならば、自分自身の体に燃え移っていたはずだ」。弁護団はそう考え、放火を認めた朴元被告の自白は真実でないと結論づけた。実験には燃焼学が専門の伊藤昭彦・弘前大学大学院理工学研究科教授が立ち会い、「自白通りに放火することは科学的に不可能」とした鑑定書を作成。これに対し、検察側は「気温や湿度が当時と違う」などと指摘。再審理由に必要な証拠の「新規性」のほか、確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせる「明白性」はないと主張したが、7日の再審開始決定は退けた。

弁護団は、府警と検察が火災原因を十分調べず、朴元被告と青木元被告が生命保険金目的で放火したという見立てに沿った供述を作り上げたと指摘。7日の会見で「今回の事件を教訓にすべきだ」と語気を強めた。

●「冤罪救済、再審本来の意義」

現場の状況や血痕などの客観的証拠より、供述を重視する――。自白偏重捜査の構図は、過去の冤罪(えんざい)事件にも当てはまる。

1967年に茨城県利根町で大工が殺された布川事件。男性2人(無期懲役確定後、再審で無罪確定)は捜査段階で自白したとされたが、水戸地裁土浦支部は2005年9月、「殺害方法を述べた自白と遺体の状況が矛盾する可能性が高い」「捜査機関の誘導で自白した面がある」として再審開始を決めた。

90年に栃木県足利市で女児が殺害された足利事件でも、東京高裁が09年6月、再審請求審でのDNA型鑑定結果を踏まえて「自白の信用性に疑問を抱かせるのに十分な事実だ」と判断。今回の再審開始決定を受け、元裁判官の木谷明・法政大法科大学院教授(刑事法)は「裁判所は再審開始の要件を厳しく解釈しすぎる傾向があった。冤罪被害者を救済する手続きとしての再審制度が本来の意義を取り戻しつつある」と指摘している。(岡本玄)

●大阪地検「意外な判断」

大阪地検の大島忠郁(ただふみ)次席検事は「意外な判断で驚いている。決定内容を精査して上級庁と協議して適切に対応したい」、大阪府警は「コメントすべき立場にない」とする談話をそれぞれ出した。

■事件の経過

1995年7月 大阪市東住吉区で住宅火災が起き、青木めぐみさん(当時11)が死亡
同9月 母親の青木恵子元被告、内縁の夫だった朴龍晧元被告を大阪府警が殺人と現住建造物等放火の疑いで逮捕
1999年3月 大阪地裁が朴元被告に無期懲役判決。青木元被告にも5月に無期懲役判決
2004年11月 青木元被告の控訴棄却。朴元被告の控訴も12月に棄却
2006年11月 朴元被告の上告棄却。青木元被告の上告も12月に棄却
2009年7月 朴元被告が再審請求。8月には青木元被告も請求
2011年5月 弁護団が火災再現実験



★ニュースファイルもくじ
◎マスコミ報道、コメント
◎意義ある裁判提訴、成果
◎国会公述、講演
◎著書への評価