弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所

ニュースファイル vol.2

当事務所に所属する弁護士が関わった事件の事例報告や、マスコミ等で報道された記事を紹介します。

●伊方原発に停止を命じた広島高裁平成29年12月13日決定に対し、朝日新聞から求められた斎藤浩のコメント


■訴訟 三権分立の働き示す 立命館大法科大学院客員教授の斎藤浩弁護士(大阪弁護士会)の話

裁判所が原子力規制委員会の判断の誤りを指摘し、三権分立の本来の働きを示した重みのある決定だ。規制委が基準に適合していると判断すれば安全であり、民事訴訟で原発を止めることはできないという、一部の声に対する理論的な応答といえる。福島第一原発事故の被害を目の当たりにしながら、行政の判断を追認する司法判断が続いてきたが、裁判官が人生を懸けてなした素晴らしい決定だ。運転を差し止める初の高裁判断という面でも意義は大きい。
(朝日新聞平成29年12月14日朝刊)


●大分県教委汚職問題、教員採用取消処分についての斎藤浩へのインタビュー ~訴訟 真相究明へ注目/検証 県教委汚職
(朝日新聞大分版2009年3月30日朝刊)


訴訟 真相究明へ注目/検証 県教委汚職 
顔写真省略(斎藤浩弁護士=2月4日午後5時24分、東京都千代田区)


県教委の教員採用を巡る汚職事件で、採用取り消し処分となった男性元教諭2人が、県を相手に処分の取り消しを求めた民事訴訟が30日から順次始まる。事件で贈収賄で起訴された8人全員に有罪判決が言い渡されたが、不正合格の口利きの実態は依然として解明されていない。日本弁護士連合会行政訴訟センターの斎藤浩委員長(63)に訴訟の意義や課題について聞いた。(聞き手・宋潤敏)

――訴訟の意義は?

行政に正職員としての採用を取り消された人が、その処分の取り消しを求めた訴訟はこれまでにないのではないでしょうか。初めての例で非常に注目度の高い裁判になるでしょう。刑事裁判では明らかにならなかった不正合格の口利きの真相究明の場としても注目です。
口利きした政治家や県教委幹部などの名が書かれているというリストや、公の席で説明責任を果たしていない教育長の証言を法廷に引き出すことも可能でしょう。闘う弁護士としてはそういう利用方法は当然で、根深い不正採用や得点改ざんの歴史が明らかになることを期待します。

――焦点は。

取り消し処分に違法性があるかどうかに尽きます。まず、行政の採用も任免も行政処分ですから、違法性が確認されれば取り消されるのが原則です。しかし一方で、行政処分によって得た法的な地位や権利は、そう簡単には奪うことはできない、という考え方もある。この二つの異なる法律的な地位がせめぎ合うことになるでしょう。

――双方の主張をどう予想されますか。

県教委としては「誤りを正すにしかず」と言う主張一本に成らざるを得ない。
原告としては、それは認めながらも、守られる立場があるという様々な要素を重ねていけるかが課題になるでしょう。「自分は頼んでいない」「親も頼んでいない」「まじめな勤務態度」とかね。
採用された人の法的地位がどんなものなのか。まったく不正に関与していなかったか、広い意味で口利きに関与していたか、例えば両親や親族、第三者が勝手に動いたかどうか、などいろんなケースが考えられるでしょう。
その中で最も重要なものは、「答案用紙が残されていないのに、なぜ得点が改ざんされ、不正に合格していたか」を県教委が立証できるかどうか。県教委はこれに責任を持たなければいけない。
データ解析の技術的な話になるか、もしくは慣習として歴代にわたって改ざんが行われていたとなるのか、県教委としては自分の恥をさらすようだけど、克明にそのことを説明すれば元となるデータがなくても認められる可能性もある。その過程で口利きの真相も明らかになるのではないでしょうか。

――事件の印象を。

08年度に20人余りが採用取り消しを受けたという重さに比べ、県教委幹部の処分は軽い。攻撃を仕掛けるのも必要です。懲戒処分の義務づけなど、幹部の責任の取り方に食い込んでいくことも考えられます。若者の将来や夢を奪っておきながら、責任者が減給処分だけというのはおかしい。
取り消し処分を見送られた07年度採用に比べて不公平感も残り、原告には同情すべき点が多く、それを積み重ねていけるのか。行政は人権的であることが望まれ、ときには司法を予備的に借りて、それを実現していくことも大切ではないでしょうか。

さいとう・ひろし 45年8月生まれ。京都大学法学部卒業。地方自治体勤務を経て75年に弁護士会登録。日本弁護士連合会行政訴訟センター委員長。行政訴訟や国賠訴訟、地方自治に関する諸問題を多く手がける。

●社保庁のずさん管理により、年金未払いになった人に支払う場合の遅延利息をつける法律の検討が与野党によりなされており、斎藤浩にコメントが求められた。(朝日新聞2009年2月15日朝刊)


直ちに法整備を  ~斎藤浩・日本弁護士連合会行政訴訟センター委員長の話

「年金支払いの遅延利息に関する法律がないのは、国家はミスをしないという前提があるから。
だが、実際には大量のミスがある。
国家賠償訴訟で公務員の過失が認められた場合に遅延損害金が付くことや、年金保険料を滞納した場合に延滞金を課すこととの比例原則からいっても、年金支払いの遅延に利息を付すのは当たり前。直ちに法整備をするべきだ」。

●区画整理事業計画に関する最高裁大法廷判決(2008年9月10日)についての斎藤浩の新聞コメント(読売新聞2008年9月11日朝刊より)

日本弁護士連合会行政訴訟センター委員長の斎藤浩弁護士は、「今後は行政計画全般で、住民が取り消し訴訟を通じて計画の是非を問えるようになるだろう」と波及効果に期待する。
例えば、木造家屋の密集地域にビルを建て、公園などを整備する第1種市街地再開発事業。元の住民が所有していた不動産が、新しいビルの権利に置き換えられる。土地所有者が事業計画に不満を持っている場合、計画段階から訴訟を起こせることになる。
都市計画法に基づく用途地域の指定では、例えば工業地域にはホテルや料理店が建てられないなど、地域によって建設できる建物の用途が制限される。これまでは新たな施設を建設しようとしても、費用をかけて設計したうえ、建築確認申請を却下された段階でないと、裁判を起こせなかったが、今後はより早い段階で訴訟を起こせるようになる可能性がある。
ただ、行政計画の取り消しが訴訟の対象となるとしても、最終的に住民の請求が認められるかどうかは予断を許さない。

●斎藤浩著「行政訴訟の実務と理論」(三省堂)の書評 元日本弁護士連合会会長久保井一匡弁護士(「自由と正義」2008年8月号)

「行政訴訟の実務と理論」
・斎藤浩 著
・三省堂 定価4,200+税(2007年9月刊)

本書は行政訴訟の第一人者である著者の手になるものであるが、その内容は書名のとおり行政訴訟の実務と理論の架橋を目指し、かつそれが見事に成功したものになっている。
著者は、大阪弁護士会所属27期の弁護士で、第一線の弁護士として活動するかたわらよくぞこれだけ内容の充実した書物をまとめることができたものだと感心する。また著書は、行政訴訟の第一人者というだけではなく日弁連の司法改革運動の中で常に縁の下の力持ち的な役割を果たしてきた。日弁連は2000年11月の臨時総会決議による歴史的転換をはかるまでは長い間法曹人口問題について消極的立場をとりつづけて来たが、著者はその中にあって早くから法曹人口の適正な増加なくして司法改革はあり得ないという主張をしつづけて来た。1999年度の小堀会長は、前年度の理事会で承認を得た「司法改革ビジョン」につづいて「司法改革実現のための基本的提言」というペーパーを理事会にかけたが、そのペーパーは、法曹人口につき「国民の必要とする量と質を受入れる」との方針を打ち出した。このペーパーの原案は、当時司法改革推進本部で活躍していた著者の起案にかかるものだったと記憶している。著者の考え方の根底には恐らくわが国の行政訴訟の件数が諸外国に比べて余りにも少ない(わが国の行政訴訟の新受件数は年間2000件程度であるのに対しドイツ50万件、フランス12万件、アメリカ3万7000件)ことを何とかせねば、つまり法曹人口を増加させ、困難を極める行政訴訟にも積極的に挑戦する弁護士を社会に送り出す必要を感じていたものと考える。
さて、肝心の本書の中身の紹介であるが、著者は行政訴訟の世界に暗いので十分に理解できないが、著者が本書の執筆で心掛けたのは「自ら行政訴訟の代理人となったり、大学で教え、準備をするときに教科書ではすぐフィットしないが、どうしても知りたいと思うことを書く」ことだったと言う。そのために著者は判例を深く読み込み、ナマの検索を心掛け、類書にないものとなっている。しかも判例の紹介は裁判所と目付と項目という従来のスタイルではなく省庁名、自治体名を調べて明記されている。さらに、著者は本書の各頁の脚注に事件にかかわる新聞記事や行政法学者の最新の論文をフルに引用し、実務と理論との関係が明確に分析されており学術書としても最高水準と言ってよい。
最後に、著者が感心したのは、本書の補章の「行政事件訴訟法改正経過」である。著者は、政府の司法制度改革推進本部の「行政訴訟検討会」の委員として今次の改正に大きな役割を果たした水野武夫弁護士(大阪弁護士会)のバックアップ委員をつとめ、改正作業に全力を傾けた。その過程では国会議員対策などさまざまな運度が必要であったが、本書はその経過を見事にまとめており、これだけでも必読の価値がある。
本書が行政訴訟の実践と法科大学院の教材などに幅広く利用されることを期待する。
弁護士 久保井一匡

●2008年新司法試験公法短答式問題についての斎藤浩の苦言(「法学セミナー」2008年8月号)

論文式試験は非常にいい問題と思いましたが、短答式は少し批判がある。
まず理論と実務の架橋という目標からして公法系についてはどうかというと、狭い見聞ですが、実務の部分というのが法科大学院によってはまだ十分でないところがある。
実務家教員の使い方というのが必ずしもうまくいっていないところが見受けられる。つまりあまりうまくいっていないところは、既存の先生方が判例を中心にして事例研究を行っている場合が多く、この方法だけではまずい。
今、全体の問題を申し上げますが、新司法修習についてのあるいは新司法修習生についてのいわれなき批判がありますが、新司法修習には従来の前期修習がなくて、実務修習も従来より短縮されているのだから、法科大学院で実務部分を一定程度教育しなければ新司法修習修了者に対するいわれなきというか、ためにする批判が降り注ぐことになります。
したがって、短答式試験もそれなりの工夫で実務を教えている法科大学院に合わせて行われるべきですから、実務面の出題がなければならないと思っています。少なくとも短答式においては、それなりの実務教育をしている法科大学院のレベルにも合っていないというか、行政法についてはほとんどそれらしいことをしていない法科大学院のレベルに合わされているような感じがします。憲法の短答式の問題はそもそも理論と実務の架橋があまりなされていないのではないか。憲法は二段階遅れていて、行政法は一段階遅れているのではないかというのが私の評価です。
もちろん、行訴法(注 法セミでは行政法となっているが、校正ミス)も国賠法も民訴が基礎になっていますから、実務的問題を作ろうとしても民事系との重複とか、いろいろ難しい問題はあると思いますが、さらなる工夫がいるのではないか。憲法で言えば、論文式の第1問のように、両方の立場をきちんと思考させる方法はいいと思いますので、原告・被告の主張の振り分けとか、結論としての判例はどうかとかいうような聞き方もあるのではないかと思います。ひっかけや落とし穴のような問題ではなくて、ほとんどの人が正解するような基本的な問題が望ましいと思います。
行政法で言いますと、2004年の行政法改正で改正されたところは実務で不便なことへの最小限の手直しだったわけですが、被告適格、管轄、出訴期間、釈明処分の督促というような改正の中で、短答式で出たのは出訴期間が2006、2007、2008年と選択肢で1つずつ出ています。管轄は2006年の短答の選択肢に1つある。ほかにも(注 法セミではいかにもとなっているが、校正ミス)被告適格とか、釈明処分の督促とかいうようなことも含めて、全体としての行政法の短答式には欠けている部分が少し見受けられると思います。

■開発許可を争うための原告適格新判断(大阪高等裁判所2008年7月31日判決)

この判決は、原告適格判断であまりにも間違っていた地裁判決を平成14年行政事件訴訟法改正や小田急事件の最高裁大法廷平成17年12月7日判決の水準でただした判決です。
理論的な意義は開発許可を争う周辺住民の原告適格につき「周辺住民の健康,生活環境に係る被害のみならず,周辺土地自体及びその利用が,当該開発行為により受ける影響についても十分配慮し,所有者らの土地所有権等の財産権についても,物理的な被害のみならず,既に住宅等の開発が行われ,ないし討画されている場合において,これに対し直接的に著しい支障を受け,財産上の著しい被害を受けるおそれがある場合,そのような被害を受けないという利益をも,一般的な公益の中に吸収解消させるものとすることなく,個別的利益として保護するべきものとする趣旨を含む」という点でしょう。

 個別事件としての意義は、原告適格の判断中で、本案の違法性判断がかなりの程度なされており、三井不動産レジデンシャルへの開発許可が違法であり、 レオパレス21の戸建て住宅への建築確認が違法であるとする判決が出る可能性が高まったことです。違法性の判断が原告適格判断のなかでおこなわれることが当然にあることは多く指摘されているところです(斎藤浩「行政訴訟の実務と理論」89頁、小早川光郎編「改正行政事件訴訟法研究」ジュリスト2005年増刊77頁以下など)。

判決全文はPDFでどうぞ(長文につき3分割されています)。

判決1.pdf
判決2.pdf
判決3.pdf

●週刊新潮(2008年3月27日号)の「国に9割勝たせる『国家賠償』訴訟」という特集に求められた斎藤浩のコメント(「週刊新潮」2008年3月27日号)

「地裁・高裁の裁判官は、最高裁がどう言うだろうか、ということを常に窺っているのです」。 
「行政訴訟については、ずっと行政優位です。最高裁は平成16年前後から見直しに着手し訴訟ができる要件を緩和したものの、国民敗訴の結論はあまり変わらないので、地裁・高裁の裁判官は迷うのです。裁判官には上級審ばかりを気にするのではなく、法曹になった原点に立ち返って、国民感情と自らの正義感とを大事にした勇気ある判決を出して欲しい。それが日本の裁判を変え、国民が信頼する司法になる近道です」。

●ジャズの澤野工房から著作権法違反のCD発売業者への発売禁止・違法CD回収の仮処分申請と実現による取下げ
(大阪地方裁判所2008年1月31日申立て、2月8日取下げ)


日本にヨーロッパジャズを広め定着させた澤野工房が、2004年以来育てすべての複製権を有するエストニアのトヌー・ナイソーピアノトリオ(これまでに3枚のCDが澤野レーベルから発売、来日コンサートも挙行)の少し古い演奏録音を、東京の業者が1200円と言う叩き売り価格で2月8日に発売するニュースが雑誌やネットで流れました。早速準備して仮処分を申請し、裁判所に交渉して異例に短期の審尋期日を入れてもらいそ業者と交渉を重ねたところ、業者は2月5日には発売中止を決め、ネットなどで周知し、8日には商品すべてを当事務所に送付してきました。完全に要求が実現したので仮処分は取り下げました。

■緑地協定の違法な廃止認可(寝屋川市長)に断(大阪地方裁判所2008年1月30日判決 )

1995年に寝屋川市でライツシティ梅が丘という大規模マンション開発の計画があり、共同開発者・地権者で緑地協定を締結し良い環境をめざしていました。ところが大型地権者の一社が離脱し、計画は留保になりました。その大型地権者から土地を購入した枚方の業者が、新たな開発を計画し、じゃまになる緑地協定を廃止したいと考えました。廃止には地権者の過半数の賛成と市長の認可がいるのですが、賛成3、反対3で膠着しました。そこでその業者は2006年、自分の土地を子会社に売買したことにし、賛成を4にする悪事を考え実行し、市長もそれを認可してしまったのです。緑地協定を守りたい地権者が裁判を起し、審理の末、悪事を知っていたか見抜けなかった市長に、認可取消の判決が下されました。そして確定しました。


●斎藤浩著「行政訴訟の実務と理論」(三省堂)への学者のコメント(「法律時報」2007年12月号 )

斎藤浩「行政訴訟の実務と理論」(三省堂)は、実務家の視点から行政訴訟の諸問題を 論じ、時として従来の学説への痛烈な批判を含む(山田洋一橋大学教授、戸部真澄名古 屋大学准教授)。

■DV防止法による保護命令~夫の暴力に悩む女性のケース

平成13年10月から施行されたDV防止法により、夫婦間の暴力については、裁判所に対して保護命令を申し立てることができます。
保護命令とは、配偶者に対して6ヶ月間つきまとい等を禁止する接近禁止命令などのことです。
当事務所に相談に来られたXさんは、夫から約30年にわたり暴力を受け続け、夫の暴力で気を失ったり、骨折したこともあるとのことでした。
Xさんと当事務所の弁護士は、十分に話合いを行い、平成23年7月に大阪家裁に離婚調停の申立を行なうと同時に、大阪地裁に保護命令の申立を申立てました。
保護命令については、申立から2週間後の平成23年8月に認められ、その後、離婚についても無事成立しました。

■後見開始申立に関する事例~兄弟が勝手に父の預金を引き出すのを早急に止めたい

当事務所では、後見開始申立のお手伝いもしていますが、詳しい事情を伺った際、新たな問題等が見つかり、後見開始申立だけでは問題が解決せず、他の方法も併せて取らなければならないことがあります。
今回は、そのような事例を紹介します。

■審判前の保全処分(Aさんのケース)

お父さんが時々判断能力が低くなることから、後見開始申立について相談に来られました。
申立の動機を伺ったところ、ご兄弟がお父さんの預金をかなり引き出して使用しているとのことでした。
通常、後見開始の申立を行ってから審判が下されるまで、1ヶ月~数ヶ月を要します。
したがって、単なる後見開始申立のみでは、その間、ご兄弟の行為を止めることができません。
しかし、財産の侵害等の危険性が高い場合には、「審判前の保全処分」も併せて申し立てることによって、早急に財産管理人が選任され、財産の管理や本人の監護に関する事項は、財産管理人にしかできなくなり、本人の財産を守ることができます。
そこで、Aさんのケースでは、平成23年4月、成年後見開始の申立と同時に、審判前の保全処分を申し立てました。
その結果、審判前の保全処分は、申立から約2週間後の平成23年5月に認められ、Aさんのお父さんの預貯金の口座は凍結され、勝手にお金が引き出されないようになりました。

★当事務所の斎藤浩と繁松祐行が、阪神淡路まちづくり支援機構が主催した東日本大震災被災地ワンパック専門家相談会に参加しました。

●「被災者支援~多様な専門家の協同必要」 斎藤 浩(朝日新聞 201.6.10「私の視点」
私と塩崎賢明・神戸大学工学部教授が共同代表を務める「阪神・淡路まちづくり支援機構付属研究会」は、4月29日からの6日間、釜石、陸前高田、仙台、福島、いわきの避難所などでワンパック専門家相談をボランティアで実施した。原子物理学者、放射線医学者、神経内科医、建築・住宅・震災復興・まちづくり・都市計画の研究者やコンサルタント、建築士、弁護士、税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、司法書士の総勢38人が相談にあたるものだ。
専門家は誇り高いが、被災者の立場から見ると一つの専門家の「専門」は狭く、総合的な悩みにその場で直ちには対応してくれないと感じることが多い。阪神大震災の際の活動で、私たちはそのことを痛いほど自覚している。
東日本大震災の規模、津波・原発問題を含む複合性からして、専門家のワンパックでの行動が求められる。今回実際に寄せられた相談事例からもそのことは明らかだ。例えば、地震や津波による賃借家屋の被害認定(地盤沈下・液状化も含む)の妥当性と借家権存続可否の判断、罹災証明との関連の相談には建築士と弁護士、司法書士が同席する必要がある。
夫と息子の一人を津波で亡くしたある女性は、認知症の実父の近隣への暴力に深く悩んで多量の安定剤に頼っていた。彼女の悩みは、精神科医が徹底して話を聞いて心の整理を促し、その傍らで弁護士が暴力の善後策を探った。その結果、女性は帰り際に「苦しみの一部をここに置いて帰れます」と話した。
福島第一原発の30キロ圏内に自宅を持つ人の健康、財産の問題には原子物理学者、放射線医学者、税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士が知恵を絞った。各地の市長、副市長、議会関係者からは、都営計画関係の学者とコンサルタント、原子物理学者が主に相談を受けた。
阪神・淡路まちづくり支援機構は阪神大震災を機会に6職種士業団体と学会が協力してできた。東日本大震災までに静岡、東京、神奈川、宮城で同種組織の結成がなされている。このようなワンパックの専門家活動が東日本大震災の各地に向けいま旺盛に求められるのはないか。当面はボランティアで被災地を回り、やがては公的資金を投入しての大規模なものに高めることが望ましい。被災者・被災地の状況は刻々と変わっていく。各段階に合わせたワンパックで被災者のニーズを専門的につかみ、自治体や政府の施策づくりに役立てる必要がある。私はこのシステムづくりを今後各方面に働きかけるつもりである。

●東日本大震災/「阪神」教訓に設立の専門家相談会、釜石からスタート
多様な問題、迅速解決/弁護士・建築士・医師…11分野22人
(河北新報 2011年5月1日)
弁護士や建築士、医師ら各分野の専門家が1カ所に集まり、被災者の相談を受ける「ワンパック相談会」が30日、釜石市の市教育センターで開かれた。

1995年の阪神大震災で、復興に携わった専門家でつくる「阪神淡路まちづくり支援機構」(神戸市)が主催した。迅速に問題解決を図るのが狙いだ。

機構の付属研究会に所属する11分野の専門家22人が参加。土地の所有権や境界、登記、損壊・流失した住宅や乗用車のローン、陸に打ち上げられた船舶の撤去費用や漁業補償など、さまざまな相談に応じた。

機構は、阪神大震災で被災者が持ち込む多種多様な相談に対応しきれなかったとの教訓を基に96年に設立された。付属研究会代表の斎藤浩立命館大法科大学院教授は「幅広い分野の専門家が知恵を出し合い、被災者の抱える問題をワンストップで解決したい」と話した。

相談会は1日に陸前高田市の高田小、2日に仙台市の司法書士会館、3日に福島市のあづま総合運動公園体育館、4日にいわき市の市消費生活センターでも開かれる。福島では原子力や放射線治療などの研究者も加わる。

●東日本大震災救援ボランティアに関する斎藤浩の論評報道 (NHK 2011年5月4日)

いわき"ワンパック相談会"
弁護士から放射線の研究者までさまざまな分野の専門家をそろえ、被災した人たちの多様な悩みに答えようという「ワンパック相談会」が、福島県いわき市で開かれました。
この無料相談会は、16年前の阪神・淡路大震災をきっかけに神戸市に設立された民間団体、阪神・淡路まちづくり支援機構が開いたものです。
被災した人たちの多様な悩みに一か所で対応しようと、弁護士や建築士、それに放射線の研究者まで、関西を中心に30人の専門家をそろえ、訪れた人たちの抱えている問題に合わせて紹介しました。
相談に訪れた男性の1人は、震災で隣の家のブロック塀が自宅の敷地に倒れ込み、撤去するよう頼んでも聞き入れてもらえず、悩んでいました。
これに対し、紹介された弁護士は、裁判所による調停といった法的手続きなどを説明していました。
また、原発事故で放出された放射性物質の危険性を良く理解できないという人も相談に訪れ、放射線の研究者から、国が設けている暫定基準値などについて説明を受けていました。
相談会に参加した立命館大学法科大学院の斎藤浩教授は、「被災者の多様な悩みを、いろんな専門家が支援することが必要だというのが、阪神・淡路大震災の教訓だ。今後、被災者のニーズも変わってくるので、また支援に来たい」と話していました。

●国道工事の用地買収価格の情報公開事例(情報公開・個人情報保護審査会2010年3月30日答申
(国土交通大臣2010年5月28日裁決)

答申は四国地方整備局長が不開示とした次の文書を開示せよと言い、裁決はそれに従って開示しました。
「特定国道改築工事に伴う特定区間における用地買収に関する以下の文書1ないし文書7(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち,別紙の1ないし7の「開示すべき部分」に掲げる部分を開示すべきである」。
文書1:補償金算定調書に係る補償金明細表
文書2:補償金算定調書に係る補償金総括表
文書3:補償金算定調書に係る土地所有者の補償に関する内訳表
文書4:土地売買に関する契約書
文書5:請求書
文書6:不動産等の譲受けの対価の支払調書
文書7:公共用事業資産の買取り等の証明書
 この答申の意義は、四国地方整備局長や裁決庁である国土交通大臣が最高裁の判例(2005年7月15日、同年10月11日、2006年7月13日)は同様の事例でこれらの情報開示を認めているにもかかわらず、この国道工事には最高裁判例の事例と異なり公有地の拡大推進に関する法律が適用されないとして不開示情報に扱ったことを覆し、開示させたことにあります。

答申全文は同審査会のホームページに掲載されています。

●裁判員制度についての斎藤浩の論説 (産經新聞2009年9月16日)

この夏見えた国民の力―裁判員裁判の出発に思う

「裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるように」(司法制度改革審議会意見書)するための裁判員裁判が全国の多くの裁判所に広がり、罪名も多彩となり、否認案件もあらわれ、刑も実刑あり執行猶予、保護観察ありと順調に進んでいる。報道も落ち着いて、裁判員の能力の高さ、一般国民が裁判を担当することの難しさ、市民感覚が裁判の結果である判決に入ったかという優れた視点が競われている。
無罪の推定ではなく有罪の推定とまで言われているこの国の裁判、密室取調べで採られた調書偏重の裁判、職業裁判官たちが作ってきた個別事情を軽視する統計的「相場」裁判が変わる可能性が出てきた。裁判員制度と同時に、刑事訴訟法を改正しての公判前整理手続で検察手持ちの証拠開示の大幅な拡大がなされ、取調べの様子を録画して残す可視化の試みも進められている。
私は、この新制度が、劇的な衆議院選挙(八月八日公示、三〇日投開票)と同時期(八月三日)に開始されたことは歴史の偶然であるとは思えない。
国民の力が権力を変えるというデモクラシーの基本が、国会と政府という政治部門に典型的に選挙で顕われたが、司法府=裁判所にも見え始めた。
もちろんそれは裁判が政治的多数派の影響下におかれるべきだと言うことではない。逆である。裁判は時の政治権力から被告人をはじめとする少数者の権利・自由を確実に守る役割を持つ。
国会・政府部門における多数派の構成と、司法=裁判部門における少数者の権利・自由確保のための制度の確立、そのどちらもが国民の力でのみ可能なのである。逆に言えば、国民の力が発揮されなければ国会、政府ともに弱体化し、裁判所は非常識の府に堕する。
大げさなようだが、この国に生まれて良かったと思える歴史を、この夏から、国民自身が自らの行動で作り始めたのではないかとさえ思えるのである。思えばデモクラシーが着実に根付いていたのである。
司法分野への国民参加は欧米の知恵だが、日本でも初めてではない。戦前には裁判員制度よりも徹底された陪審制が戦争で中断されるまで実施されたし、戦後は検察官の不起訴は不当だとの民意を反映させる検察審査会制度が営々と維持され、着実に成果を上げ、今年から審査会の議決の効果が強化されている。参加した検察審査員のアンケートでは誇り高い仕事を果たしたとの意見が示されている。うまくいっていないのは最高裁判所裁判官の国民審査制度であるが、それには制度的理由がある。「×」をしようにもわからないから何も書かない投票を信任と扱うなど茶番ではないか。しかも最高裁裁判官の名やその業績はほとんど情報化されていない。これも制度を変えれば国民の力を示すことは可能である。司法、裁判の場への国民参加は日本のシステムを下支えするのである。
さて始まったばかりの裁判員制度だが、運用実績を点検しなければならない。裁判所、検察庁、弁護士会、学者、労働組合、市民団体などを糾合した点検委員会を各地に作り、総括し、運用改善(たとえばわかりやすさの追求が過度となりやるべき証拠調べが簡単になりすぎる傾向の防止策、裁判官の意見の押しつけの防止策、選任手続の再工夫など)をどんどん実施し、その結果にもとづき国会で「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の三年見直しの時期に必要な改正(たとえば裁判官と裁判員の三対六の比率は適切か、対象罪名を広げるか狭めるかなど)を断行すべきである。この制度が定着してくれば、次には国や地方公共団体を相手にする行政裁判の場など国民の目で判断するのに適した分野にも裁判員制度を導入すべきであろう。

さいとう・ひろし 昭和20年生。弁護士。淀屋橋総合法律事務所長。立命館大学法科大学院教授。 

●斎藤浩の書評『螻蛄(けら)』黒川博行著 (産經新聞2009年9月13日)


【書評】『螻蛄(けら)』黒川博行著

■うごめく人間描き悪を暴く

「疫病神」シリーズ第4作。帯に「ノンストップ・ノワール」。暴力描写をふんだんに登場させる犯罪小説である。私のタウン誌「おおさかの街」の巻頭言を1997年、黒川氏にお願いした。「失われた原風景」と題された短文に、大阪の雑然混沌(こんとん)文化の喪失、東京へのひがみ根性、経済第一主義への批判、芯(しん)にプライドがあり揺るぎがない京都との対比を書いていた。その97年にシリーズが始まっている。黒川氏は内面にこのような大阪批判をかかえて、イケイケの大阪やくざの桑原とほとんどそのフロントといえる主人公二宮に、コテコテの大阪弁での掛け合い漫才を展開させつつ主題に迫る。
今作ではその揺るぎがない京都の仏教大宗派の恥部を扱う。真宗大谷派(東本願寺)がモデルであろう。その内紛と腐敗を嗅(か)ぎ付けてシノギにしようと攻める桑原は山口組系が強く暗示され、守る寺側につく組は極東会系を想像させる。寺側には大阪府警の警官も。経済やくざが主流の今日でも、最終決着は陰陽の暴力であることを迫力ある筆致で描いている。
二宮はサバキで生計を立てる。建築現場への言いがかりを他のやくざ、上位の組で決着を付ける。桑原に利用されながら助けもし、自分の利益を確保していく道行きはシリーズを貫く背骨である。「疫病神」の産業廃棄物問題で知り合った2人が、「暗礁」で運送業界問題、「国境」で北朝鮮問題と現代のいわばタブーに挑戦し、本作で宗教に迫る。タブー・悪の解明を正義でなく悪でおこなうという手法の特異さは、いまや読者の待望の的となっている。
螻蛄とは、やなせたかし作詞、いずみたく作曲の名曲「手のひらを太陽に」の歌詞、「みみずだって おけらだって」の、あの「おけら」である。「みんなみんな生きているんだ 友だちなんだ」という清浄な世界からはほど遠いけれど、黒川氏は螻蛄の特徴(昼は地中に棲(す)み、土中でジーと鳴き、前足で土を掘り、夜は灯火めがけて飛び回る)をやくざに重ね、宗教者に重ねて、うごめく人間を描く。そして悪をあばく。(新潮社・1995円)
評・斎藤浩(弁護士)

●雑誌「おおさかの街」休刊についての報道(毎日新聞2009年7月22日夕刊)


  遊歩道  『おおさかの街』    詩人 中塚 鞠子

 先月、24年続いた『おおさかの街』が、70回記念号を出して休刊した。1985年1月に創刊したこのタウン誌(季刊)は、大阪固有の歴史と文化にこだわり、まちづくりや環境問題、何よりそこに生きる人々との交信を大切に、知力あふれる誌面作りをしてきたが、ついに休刊を余儀なくされた。
わたしは単なる一読者であったが、高村薫さんら著名人の巻頭言や広い視野からのインタビューを毎号掲げ、時代に先駆けた問題を取り上げていた。また、主筆自らが執筆していた「SOME評論」は、演劇・映画・文学・美術・写真と幅広いジャンルにわたっていて、読み応えがあった。バックナンバーをそろえて冊子にすると四半世紀の大阪の貴重な歴史の資料になるだろう。
さらに、「浪速人物往来」のコーナーでは、思ってもみなかった作家や文化人がかつて大阪に住んでいたり、大阪を通り過ぎていったり、思わぬところで大阪の影響を受けていたり、と面白く読んだものだ。
主筆の斎藤浩弁護士は最終号までの道のりを「……私の年齢では39歳から63歳であった。世紀をまたぎ、元号をまたぎ。青年末期から還暦をまたいだ」と記した。大勢の兼業記者で、こんな立派な雑誌を24年間も続けてこられたこと自体奇跡に近い。しかも1冊300円だった。
大阪には他に、『大阪人』(100%大阪市の出資)や『上方芸能』などがあるが、それらとはまたひと味違ったユニークな雑誌だった。
大手出版社の雑誌でさえ相次いで廃刊に追い込まれる時代、「大阪から人間の尊厳を発信」するようなこの種の雑誌は果たしてまた生まれるだろうか。

●雑誌「おおさかの街」休刊についての報道 (産經新聞2009年7月8日朝刊)


■タウン誌「おおさかの街」 24年のこだわりに終止符 

◆「やり尽くした」胸張って退場

大阪にこだわる雑誌がまた一つ、姿を消した。大阪で活動する人々を取り上げ、芥川・直木賞作家らによる豪華な巻頭言などでも知られたタウン誌「おおさかの街」が、5月25日発行の70号で休刊した。昭和60年に創刊して24年。発行者・主筆として、大阪の街を見つめてきた斎藤浩弁護士(63)=写真=に話を聞いた。
「『世界』と『文芸春秋』の中間くらいの雑誌を作りたかった。巨大な読者は獲得できなかったが、内容には胸を張れます」と斎藤さんは感慨深げ。最終号の記念巻頭言も『悼む人』で直木賞を受賞した作家、天童荒太さんの「悼みの実感」と読み応えがある。以前、斎藤さんが書いた書評を覚えていた天童さんが、多忙ながら快諾してくれたというからすごい。
これまでにも浅田次郎さん「普段着の街」、角田光代さん「大阪との細い糸」、山本一力さん「おいしい大阪」などそうそうたるメンバーが執筆。タイトルだけでも興味をそそる。手塚治虫さん、王貞治さんのインタビューなどもあった。
「残念でならないのは、今は忙しいがいずれ…と、はがきを頂いた司馬遼太郎さん、電話で書くと言ってくださった開高健さん。どちらも亡くなって実現できませんでした」
広告は取らず、定価300円で年に3~4回発行。大阪の歴史や文化、街づくり、環境問題にいたるまで、その時々に人や事象を取り上げてきた。大阪批判も偏見なしにそのまま掲載する客観性、そんな編集方針を貫いた。最近では、大阪市中央公会堂の保存・再生に携わった人を取材した総力特集、橋下徹大阪府知事の検証などが特筆もの。主筆が担当した「SOME(サム)評論」も名物コーナーだった。
旭屋書店本店やユーゴー書店など、20あまりの書店が心意気で置いてくれたが、商業ベースには乗らなかった。「やり尽くした。力尽きた」と斎藤さんはサバサバ。「でも素材はまだいくらでもある。次世代に期待したい」と無念さも。
雑誌不況といわれる。人々の価値観やニーズが多様化する現代、売れる商品づくりは難しい。一方で、紙媒体はデジタル化という大転換期を迎えている。また、違うかたちで「おおさかの街」に出合えるかもしれない。

バックナンバーなどの情報は(http://www.mmjp.or.jp/machi/)。 
(山上直子)

★労働事件 最近の解決事例2件

■2年間の病気休職期間満了により雇用契約が終了すると、会社から通告されたが、職場復帰した事例


IT関連企業の従業員Aさん(30代男性)は、2年間の病気休職期間が満了する前に会社に対して復職を申し出たが、会社は、病気休職期間満了によりAさんの雇用契約が終了すると通告してきた。
Aさんは、病気は治り、労務提供が可能であるとして、地位保全及び賃金仮払の仮処分命令を求める申立をし、認容決定を得た(平成17年)が、会社は復職に応じなかった。
そのため、直ちに地位確認等請求事件を提起し、平成20年に地位確認、未払賃金、慰謝料などを認める1審の判決が出た。その確定によりAさんは、職場に復帰した。


■事実無根の刑法抵触行為を理由になされた懲戒解雇を撤回させた事例


医療従事者Bさん(40代女性)は、勤務先の医療法人から、事実無根の刑法抵触行為を理由に、懲戒解雇を言い渡された。
そのため、同医療法人に対して、地位保全及び賃金仮払の仮処分命令を求める申立をした。
審尋手続において、懲戒解雇を撤回し、名誉回復を認めるなど訴訟上の和解が成立した(平成21年6月)。


このページの上へ戻る 弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所 大阪市中央区北浜2-5-23小寺プラザ8階 06-6231-3110